とっておきサプライズ

3月4日の夜の事。日付が変わる五分前に、俺の携帯に幸村くんから着信が入った。
「もしもし?」
「白石、スゴイのが届いた。」
久々に聞く幸村くんの声は、薄い機械越しでも興奮気味なのがよう分かってきて。
「本が届いたん?」
「違うよ!それも届いたけど、俺が言ってるのはそっちじゃなくて、君がもう1つ送ってくれた方!!」

何にテンション上がってるのかは分かってたけど、意地悪してわざと違う答えを言う。そしたら一瞬歯痒そうに唸って、その後必死になって否定と肯定を言ってきたから、おかしくて思わず笑ってしもた。幸村くん、よく俺に唐突に何か仕掛けてくるけど、自分がされると慌てるんや。おもろい。
「俺、あんな花束貰ったの初めてだよ。」
「造花やけどな。」
「それでも嬉しいよ。ありがとう、白石。」

嬉しそうな声音が耳に届いて、心がじんわりと暖かくなった。喜んでもらえた、それだけで俺も嬉しい。通話したまま、ゴロリとベッドに横になる。柔らかい布団の感触に包まれながら顔を動かすと、部屋の時計が視界に入ってきた。時計の針は2本共、数字の12を指してて。
「あ、12時なった。」
「もう?」
「うん、3月5日になったな。・・・なぁ。」
「ん?」
「誕生日おめでとう、精市。大好きやで。」
「!!・・・ありがとう。俺も蔵ノ介が大好きだよ。」

聞こえてきた言葉の威力に耐え切れなくて、思わず片手で顔を覆う。誕生日やから、1年に1度の特別な日やから。せやから照れくさくても、頑張って言うたらなあかん、て思ってたのに。
「自分、なんでそんなあっさり返してくるん?照れたりとかせえへんの?」
こっちは下の名前呼んだだけでも、相当勇気出したんに。
「俺だって照れてるよ。不意打ちなんてズルイじゃないか。でも、君が好きって言ってくれたなら、ちゃんと返事したいんだ。俺も蔵ノ介の事が大好きだから。」
「っ、もうやめてや。恥ずかしくて死ぬ。」
「嬉し過ぎてじゃないの?」
「ちゃう。」
顔を覆うだけじゃどうしようもなくなって、ベッドの上を無意味にゴロゴロ転がる。囁かれる甘い言葉は、耳からダイレクトに聞こえた分、随分聞いてなかったのもあって俺には威力が強過ぎた。直接言われた時よりも、何かこう、クる。
「残念だなぁ、もっと呼びたかったのに。」
「・・・今度会うた時言うから。それで今日は堪忍してや。」
「本当に?絶対だよ?」

今度がいつになるか分からんけど、それまでには幸村くんみたいに、照れずにスマートに名前呼びも告白も言えるようになっときたい。そんでもっと幸村くんを照れさせたるんや。
「嬉しいな。本当にありがとう、白石。最高の誕生日だよ。」
まぁ、名前呼びは別として。ひとまず俺のサプライズは大成功。幸村くんが喜ぶような事をしてやれて良かった。
(あの花屋のオバちゃんにも、お礼言わんとあかんなぁ。)
そんな事を考えながら、静かに瞼を閉じる。幸村くんが大好きやって言うてくれた、嬉しい。今日だけは、いつも感じてる寂しさを忘れて、幸せな気分で眠りにつける。落ち着いた心地よい声に耳を傾けて、今日は良い夢が見れそうやと思った。

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