非流行性感冒

白石が起きて来ない。いつもなら規定の起床時間よりも早くに起きて、日課の健康体操を終えた後、寝過ごしがちな俺と不二を起こしてくれるのに。今日は朝食の時間が近くなっても、ベッドから出て来る気配が無かった。もちろん起床時間はとっくに過ぎてしまっている。不審に思って白石のベッドのカーテンを開けると、彼は枕に顔を埋めてとても苦しそうに呻いていた。
「あ、」

光が当たってこっちに気付いた白石が、顔を上げて何か言いたそうに口を開く。けれど、喋ったのと同時に乾燥した空気を吸い込んで、思い切り咳き込んでしまった。ゲホゲホと大きく咳をする白石の背中を摩ってやると、やけに熱い。もしやと思って額に手を当ててみると、やっぱり尋常じゃないくらい熱かった。咳、熱、それに加えて、さっき喋った時の声も枯れていたし、どうやら風邪を引いたらしい。荒い息を吐きながら苦しむ姿を見かねた俺は、毛布ごと白石を担ぎ上げた。
「医務室、行こうか。」

体調不良の原因はただの風邪だと、診察を終えた先生は眠る白石に毛布を掛けてやりながらそう告げた。安静にしていればすぐに良くなるそうだ。
「心配する事はないから、もう練習に行きなさい。」と諭されて、時間が迫ってきていた俺と不二は、後は先生に任せる事にして静かに医務室を出た。
「「はぁー・・・・・・。」」

出てすぐの所で、不二と2人、大きな溜め息を吐く。ずっと張っていた肩の力がようやく抜けた。
「ただの風邪か・・・。良かった、大きな病気じゃなくて。」
「そうだね。」
終始冷静な態度を崩さなかったつもりだけど、本当は心配で仕方がない。本当に驚いたんだ。いつも元気な白石が、あそこまでぐったりしている所なんて初めて見たから。先生が話し掛けてきた時、声音がやたらと優しかったのは、俺達が焦っている事に気付いていたからかもしれない。
「白石、大丈夫かな・・・。」
「医務室にいるなら大丈夫だよ。」

設備だけは無駄に整っているし、大丈夫だと思いたい。未だ両手に、さっきの白石の体温が鈍く残っている気がした。

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