背中にキス

「う、ん・・・」

肌寒さを感じて目を覚ます。ゆっくり目を開けると、ぼんやり霞む視界一面に広がる肌色。何で?と思ったけど、せやった。昨日、幸村くんと一緒にそのまま寝たんやった。俺も幸村くんも、上にも下にも何も着てへん。加えて寒さが厳しくなってきたこの季節に、被っとった布団は肩からずり落ちてしもてる。そら寒いわな。

幸村くんはこっちに背中を向けて、未だにスヤスヤ眠っとる。風邪を引くとあかん、と思って布団を引き上げようとした所で、幸村くんの背中の一点に目がいった。背中の左右4本ずつ、縦に引っ掻いた痕があってミミズ腫れになっとった。
(こんなん、いつ怪我したんやろ?)
痛そうな痕を、指先でそっと撫でる。上の方は下よりも傷が深くて、ほんの少し血が滲んどった。ここである事に気付く。傷の幅が、俺の指の幅と同じや。俺が幸村くんの背中に傷を付ける?
(・・・・・・あー、)
身に覚えがあった。昨日の夜を思い出して、一人悶える。

幸村くんとする時、どうやっても力が入ってしまう俺は、どうやら幸村くんの背中に痛々しい爪痕を残してきてしまっていたみたいや。くっついててええよ、ちゅう言葉に甘えてきてたけど、ひょっとして毎回こんなんなっとったんかな?もしそうやったら、あかん事してきたなぁ。ちゃんと消毒せな、痕が残るやん。

布団をしっかり被って、寒くならないように幸村くんの背中に身を寄せる。両手を背中に当てて、手の平全体で傷を撫でとったら、幸村くんが目を覚ました。
「ん・・・、白石?」
「幸村くん、堪忍。」
寝起きの頭でも、俺の言葉と行動で何を気にしているか察したらしい。
「気にしなくていいのに。」
幸村くんがそう言うけど、俺の気が済まんかった。好きな人の体にがっつり傷こさえるとか、そんな趣味俺には無いで。ちょっとでも治りが早くなるように、そっと背中に唇を落とす。痛みが出ないように、慎重に優しく。
「痛かったやろ。」
「大丈夫だよ。俺も痛いとか感じてる余裕無かったし、本当に気にしないで。」
帰ってきた返事に思わず押し黙る。今、さらっとエライ事言いよった。
「それに・・・。」

こっちに向き直った幸村くんの指が、俺の足の間にのびる。昨日の行為の余韻が残る敏感な部分を触られて、体が跳ねた。
「あ、っ・・・」
「俺よりも、君の方がずっと痛かったと思うんだけど。」
「いや、場所が場所やし。は、あ・・・。この手は、っ何なん!?」
労わる様な声音の癖に、長い指はグイグイと容赦なく俺のナカを擦る。解されてから大して時間が経っていないソコは、刺激されても痛みよりも快楽の方が勝った。
「んあ、や、っ・・・アカンて、そこ、」
「痛くない?」
「、痛、くない。」

そら最初の頃と比べたら、今はだいぶ痛ないけど。・・・せや、初めてした時めっちゃ痛かったわ。次やるんが怖くて嫌になるくらいの痛さやったわ。泣いてもうたし。それ考えたら背中に引っ掻き傷くらい、俺が受けた分と比べれば、代償としては全然足りてへんのやけど。せやけど、やっぱり幸村くんの綺麗な背中に傷が付くんは嫌やなぁ・・・。
「っつ、まだ、朝、」
「白石が朝から可愛い事するからいけない。」
「眠い・・・」
「頑張って。」
「ん、・・・あっ、あっ、・・・・・・。せ、背中、」
「?」
「あ、後で。消毒する、から、」
「ふふ。うん。後で、ね?」

いつもみたいに、覆い被さる幸村くんの背中に腕を回す。傷は付けたくないんやけど、痛みよりも刺激に耐えられへんから、無意識に力入れてまた傷増やしてしまうんやろうな、と熱くなった頭で考えた。
(背中、綺麗に治るとええなぁ。)

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