爪先にキス

「幸村くんって、魔王なんて言われとるけど、俺的には女王様っぽい感じもする。」

こんな下らない事を考えてしもたのは、さっき四天宝寺のメンバーで話しとった時に、跡部くんは王様、越前くんは王子様なんて呼ばれとるのを聞いたからやった。その話の流れで、じゃあ幸村くんと不二くんは?と聞いたら、なんや魔王とかいうどエライ返事が返ってきた。俺は幸村くんも不二くんも王子様タイプやな〜、なんて思てたんやけど、そう言うたら皆に否定された。
「確かに顔は王子様に相応しいかもしれんけど、試合の時に相手の五感奪って地に伏させたりとか、笑顔と言葉で精神攻撃してくる王子様がどこにおんねん!!」やって。
他にも小春情報によると、過去に「人の不幸な姿を見るのは楽しい」とか、「君が相手なら楽勝だね」とか上から過ぎる発言があったらしい。

言いたい事はわかったけどな、やっぱ魔王っちゅうのはどうなん?絶対、本人達は納得してへんやろ。他の肩書き付けたれや、ちゅうたら、ユウジが斜め上すぎる一言。
「魔王があかんなら、女王様や・・・。」
・・・あかん、何それめっちゃ似合うやん。2人共男やから女王も何もないけど。うっかり幸村くんと不二くんが、マリー・アントワネットみたいに傍若無人の限りを尽くす姿を想像する。想像上の姿に違和感はあらへんかった。
「俺が女王様?」
「何かな、跪いて靴を舐めろみたいな台詞、めっちゃ似合うて思ててん。」

不二くんにも言える事やけど、幸村くんは綺麗系やから全然イケルと思う。女王様みたいやなんて、不二くんも幸村くんも不本意かもしれへんけど、そんな肩書きが様になる人なんて四天宝寺にもおらへんから、正直ワクワクしとる。
「な、1回でええから言うてみて。こんなん頼めるの、幸村くんしかおらへんし。」
「もう・・・。仕方ないなぁ。」
「よっしゃ!!おおきに。」

幸村くんは呆れながらも了承してくれた。そして静かに机のイスを引いて、足を組んで深く座る。椅子の背もたれを肘置き代わりにして、顔を傾けて頬杖をつくと そのまま顎を上に向けて、せやけど視線は反対に下に向けて一言。
「跪いて靴を舐めろ。」
「お、おぉ〜。」
思ってたより、めちゃめちゃ似合てる。思わず拍手してしもた。威圧感バリバリで半端ない。いつもよりオーラ増しとるわぁ・・・。ちゅうか、仕方ない言ってた割には全力でやってるやん。
「さすが幸村くん。」
「ありがとう。」
「なんか満足したわ。おおきに。」

変な満足感を得た俺は素直にお礼まで言うてしもた。まぁ、こんな訳分からんお願いしたのに、きちっとやってくれる幸村くんは、ほんまに心が広いなぁと思ったからなんやけど。せやけど、ここで予想外の事態が起きた。幸村くんのオーラが、いつまで経っても静まらん。
「白石。」
「何?」
「跪いて舐めてよ。」
「!?」
「ほら、早く。」

未だに椅子にふんぞり返って座る幸村くんの足は素足。俺の視線を受けて、目の前の女王様はものすごい綺麗に微笑んだ。
「靴は履いていないから、このままでいいよ。」
「え、本気なん!?」
「俺は白石のお願いを聞いたんだし。白石も俺の言う事を聞く気は、もちろんあったんだよね?」

幸村くんの綺麗な爪先が、ズイっと前に出される。台詞、態度、動作。この三つの一連の動きが完璧や。え、自分慣れ過ぎやない!?そしてどんだけ似合うてんねん。あまりに様になり過ぎて、このまま宗教を発足しても違和感が無いくらいや。作るとしたら、名前は幸村教?座っとるだけで、こんだけ神々しいオーラを放てるんやから、神の子の通り名も相成って、次々と信者が集いそうや。

俺はオーラに負けて、膝を折って幸村くんの前に座り込んだ。足首を持って、ゆっくりと顔を近付ける。舐めるのは気持ち悪いやろうし、申し訳ない気がして、チュッと爪先に口付けるだけで終わった。
(なんやこれ・・・。俺は一体何をしてるん?)
段々混乱してきた俺に向かって、幸村くんは満足そうな顔を向けると、上体を曲げて手を伸ばして、俺の顎を指先でそっと撫でた。
「よくできました。いい子だね、白石。」

うっとりとした目で見つめられて、何でか頭がぼんやりしてきた。急に音が聞こえんくなって、幸村くんのふわふわした匂いも消えて、撫でられる感覚が消えて、ちゃんと座っていられているのかすら分からんくなって、もう分かるのは目の前で笑う幸村くんだけ。幸村くんが椅子から降りて俺に両手を伸ばしてきた所で、遂に何も見えなくなった。真っ暗な世界に堕とされて、混乱したままの頭じゃ、とてもまともな思考なんか出来へん。こんな感覚初めてや。幸村くん、やっぱ めっちゃスゴイ。・・・もう女王様やってって言うの、絶対やめとこ。

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