髪にキス

「ただいま〜。」

外から戻って来ると、いつもよりも部屋が静かやった。あれ?と思ったけど、理由はすぐに分かった。いつもこの時間は部屋の植物の手入れをしている幸村くんが、今日は机に突っ伏してスヤスヤと眠りこけとる。机の上にはやりかけの課題。やってる途中で寝落ちしてしもたんやな。髪は風呂から上がってから、完全に乾かしてもおらんらしい。湿った髪からシャンプーの香りが、いつもより強く部屋中に漂っとった。
(疲れとるんやろなぁ・・・。)

このまま寝かせてやりたい所やけど、生乾きの髪をこのままにすると風邪引いてまうから、可哀想やけど起こしたるか。そう思って肩に手を掛けようとした所で動きが止まった。近付いたら、髪の香りがより強くなる。・・・あかん、ええ匂いする。俺、シャンプーの香りするの、めっちゃ好きなんやけど。
(ちょっとだけならええかな・・・。)

藍色の髪を前にして湧き上がった、一つの欲望。この香りをもうちょい近くで嗅ぎたい。そろそろと旋毛の辺りに顔を近付ける。息を潜めて、そっと鼻で息をするとふわっと爽やかな広がった。んん、この匂い、めっちゃ好きかも。絶頂や!!テンションが上がって、つい色んな角度から堪能してしもた。いい加減、そろそろやめとこか。幸村くんが起きて、こんな俺を見たらドン引き間違いなしやからな。

満たされた所で視線を落とすと、目を閉じた幸村くんの綺麗な横顔が目に入る。テニスしとる時はかっこええし、せやけど普段は綺麗やし優しいし、おまけにシャンプーのええ匂いするとか完璧やん!!俺の理想。
「はぁ、・・・幸村くん。好きや。」

艶めく髪にそっと唇を落とす。名残惜しく思いながら、今度こそ幸村くんを起こすために肩に手をかけた。起きたらしばらくはボーッとしてるやろうから、髪の毛は俺が乾かしたろ。そして何のシャンプー使うてるのか教えてもらうんや。

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