永遠に君のもの

事の始まりは、合宿所のコートだった。休憩時間中、乾汁を煽る不二の姿。グロテスクな色が不二の口の中に消えていくのは最早日常と化していたから、まぁいつも通りの平和な光景だった。今日がいつもと違う日になった原因は、白石が好奇心に負けて乾汁を飲んでしまった事。俺が止めようとした時には既に手遅れで、乾汁を飲んだ白石はコップを取り落として卒倒した。倒れこむその体を、必死に手を伸ばして何とか抱きとめた、その瞬間。突然辺り一面に白い煙が立ち込めて、コート内は騒然となった。

幸い煙はすぐに消えたから、コートに残っていた皆がパニックに陥ることはなかったけれど、何が起きたのか全然わからない。晴れ具合からして、煙はどうやら俺の周囲を中心に発生したみたいだ。俺はハッとして慌てて腕の中の白石を覗き込む。煙を吸い込んでしまっていたなら大変だ。
「大丈夫!?しらい・・・し・・・・・・?」

掛けた声が急速に消えていく。腕の中で気を失っている白石は、俺の知ってる白石じゃなかった。髪の色も顔立ちも確かに白石なんだけど、今の彼はなんというか大人っぽい。服もユニフォームじゃなくて私服になってるし。本当に一体何が起きたんだろう。心配して近付いて来た皆も、白石の様子が変わっていることに気付いて、一歩離れた所で見守っている。どうしよう。
「う・・・?」

途方に暮れていたら、白石がゆっくりと目を開けた。目を覚ました白石は俺にとって強烈だった。誰にも言ってないけれど、俺は白石に対して恋愛的な意味で好意を持っている。きっかけは、この合宿で出会う前。大会で初めて姿を見た時から、ずっと長い片思いをしているんだけど。そんな相手が今までにない近い距離で自分を見ている。突然の事が連続で起き過ぎて、俺は混乱した。というより混乱以前に、長い睫毛に縁どられた瞳と目が合った時点で、それに見惚れて動くことが出来なかった。
「精市。」

その言葉に、さらに俺は混乱する。白石は俺のことを苗字で呼んでいて、だから下の名前を呼ばれたのは初めてで。らしくもなく、ぶわりと頬が熱を持つ。
(綺麗だ・・・。)
好きな人とこんなに近くで見つめ合っている。夢にまで見た光景に、嬉しさとそれと同じくらいの緊張とで、俺は一瞬で周りの世界が見えなくなった。まさか白石の方から近付いて来てくれるだなんて。動けないままの俺に向かって、うっとりとした目の白石が両手を伸ばしてきた。長い指に頬を包まれて、だんだん近付いて行く距離に、俺は混乱しながらも目を閉じようと・・・。
「精市、めっちゃ若いな!!」
・・・した所で、くわっとそう叫んだ白石に驚いて、俺は我に返った。

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